社労士が解説する、長時間労働の「大きなリスク」と残業許可制のすすめ

社会保険労務士の田辺です。コロナ禍などによる社会変化が激しい時代ですが、長時間労働はいまも昔も変わらず労務の課題です。今回は長時間労働が抱えるリスクや長時間労働をなくしていくヒントについてお話しします。

目次

会社は社会の一員

「忙しいのだから、やっぱりみんなで協力して残業してほしい」

「労働時間を減らせば、売り上げが減っちゃうからね」

「そもそも労働時間を減らすなんて無理!」

労働時間削減の話題になると、経営者の多くはこういった反応をされます。確かにそう思うのも理解はできます。理解はできるのですが、社労士の目線から見ると大きなリスクをはらむ、危険な考え方だと感じられます。

会社の目的は「利益」を上げることです。では目的を達することができれば、なんでも許されるのでしょうか? 当然、目的を達するために守らなければならない義務があるはずです。会社は社会の一員です。「法令遵守」は、会社にとっての義務の一つで、その上で利益を追求していくことになります。

新型コロナ騒ぎで印象が薄くなってしまった「働き方改革」ですが、その大きな柱に長時間労働の是正がありました。

2018年6月に働き方改革推進法が成立し、今回の労基法の改正では労働時間の上限も設定されています。つまり設定された上限を超えて従業員を働かせた場合は、違法になるということです。これはなかなかに衝撃的な内容でした。

リスクその1 法律違反になる

これまでは時間外・休日労働協定(三六協定)を締結すれば、従業員に時間外労働・休日労働をさせることができ、その時間数については告示で1か月45時間、1年360時間とされてきました。

しかしこの基準時間はあくまで告示で示された時間で、強行的な効力はありません。

仮に基準時間を超えて働かせても、監督署等の行政機関からの指導の対象とされることはあっても、法違反とはならなかったのです。

さらに三六協定に特別条項を付せば、年間6か月の範囲の中で告示による基準は設けられていませんでした。年間6か月の範囲内であれば青天井で従業員を働かせることも可能だったわけです。

しかし今後は、これまで通りにはいきません。

なぜなら法律で上限時間が決まっているからです。違反すれば罰則の対象となり、悪質な場合は逮捕・送検もありうるわけです。

「労働時間を減らすなんて無理!」なんていっていられない時代。知らないではすまないですよね。やはり、労働時間を減らすような取り組みが必要ではないでしょうか。

リスクその2 身体への影響で、慰謝料請求?

その他にはどうでしょうか。

従業員に対し「安全面で配慮する」ことも大きな義務となっています。この安全面の配慮は、業務中の事故防止だけにとどまりません。従業員の身体的・精神的な安全の確保も含まれます。

具体的には、「長時間労働などで体調に異変が起きないように配慮する」「職場にいじめ(ハラスメント)などが起き、精神的な健康を害さないよう配慮する」などが挙げられます。

長時間労働は、脳疾患や心疾患、精神疾患等の要因ともなるとされています。1か月あたりの時間外労働が45時間を超え、長くなればなるほど、その危険性は高まります。

脳疾患・心疾患の労災認定基準も「発症前1か月間に100時間または2~6か月間平均で月80時間を超える時間外労働は、発症との関連性は強い」となっており,さらに2021年9月には「改正脳心基準」として対象疾病の拡大がされるなど、会社にとっては基準が厳しくなっています。

こうした背景から、長時間労働の改善や改善に向けた取り組みを行わなければ、それは会社の安全配慮義務違反として判断され、慰謝料請求等が認められやすいということになるでしょう。

実際に月80時間を超えるような残業時間が数か月続き、改善指導等もなかった使用者に対し、安全配慮義務違反で慰謝料請求を認めた裁判例もあります。しかもこのケースでは、具体的な疾患を発症していないのです。それでも会社に対して厳しい判決が下されました。

「忙しいのだから、やっぱりみんなで協力して残業してほしいよ」

なんていってられないのです。

減らさなくてよい残業もある

それでも「労働時間を減らせば、売り上げが減っちゃうからね」と考える社長も多いでしょう。

私も、残業のすべてが「悪」だとは思っていません。会社にとって必要な残業時間も、間違いなく存在します。そういった残業時間は減らさなくてもよいと考えます。

本当に必要な残業時間を会社で判断し、正当な残業をしてもらう。会社で労働時間をマネジメントできていれば、トラブルは起きません。

本当に必要な残業時間は、これまでの残業時間全体からみればそう多くないのではないでしょうか。どんなに多くても、月に45時間を超えるようなことはないのではありませんか?

残業前に、会社から許可を得るようにする。
許可があって初めて残業ができる。

そう整えることで、リスクは大きく回避できます。

残業許可制を成功させるヒント

「そんなことすでに導入しています!」という声が聞こえそうです。

制度を導入して、実際の運用はいかがですか?

就業規則に定めただけで、「うちは残業許可制だから…」と主張しても、残念ながら認めてもらえないでしょう。

形骸化した制度は、ないものと同じです。

就業規則に定めからといって安心していては危険すぎます。

まずはトップメッセージを発しましょう。「当社は原則として残業を禁止します。どうしても残業が必要なら『残業申請』をしてください」と。社長からのメッセージがあるかないかで、従業員の意識はまったく違うものになります。

そして、残業許可制をどんどん活用しましょう。

許可をするしないの基準をきっちり決めて、必要な残業を会社が見極めてみてください。

そのときは、社長にとって、会社にとって、一番の目的を忘れないようにしてください。「業績アップ」や「会社の売り上げ」が目的なのであれば、それを生み出すための残業であれば、どんどん許可すればいいと思います。

逆に、目的に沿っていなければ許可しない。このように、徹底的に労働時間をマネジメントしていきます。

そにような企業体質を作ることこそが、長時間労働のリスクから会社を守る第一歩だとは思いませんか?

社労士よりひとこと

たしかに残業時間の管理は、非常に難しいです。多くの社長が頭を悩ませています。働き方改革で厳しい改正も行われました。当事務所でも、監督署等の行政機関の指導関連の相談も増加傾向にあります。

すでに顧問社労士がいる会社は、相談してみてはいかがでしょうか。顧問社労士がいない会社も、実際に調査が入ってから慌てるのではなく、予防的な管理をおすすめします。

ご不安があれば、当事務所でも無料相談・無料労務診断を承っております。お気軽に以下フォームよりお問い合わせください。


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